原材料の価格がどんどん下がり、使い捨て経済が成り立ってきた。
しかし、このような産業が拡大するにつれて、支払わねばならない代償も増大の一途をたどっている。
この半世紀の間、原材料を産み出さんがために、前代未聞の環境破壊が行われてきた。
不幸なことに、豊かな国の都市に住む人々の目には、地球が被っているダメージはほとんど見えない。
そして、人はともすると、直接見えないことにはあまり注意を払わないものである。
急速な産業化とともに台頭してきた消費者社会が、使い捨て経済を押し進めてきた。
二○世紀の中頃以降、北米から西欧、日本、発展途上国の富裕層へと消費文化が広がり、それに伴ってモノに対する膨大な需要が生じた。
当然ながら、モノを生産するための材料に対する要求もとどまることがなかった。
そして、消費の増大は経済発展に直結し、国と国民の繁栄に貢献するという考えに異論を唱える者はほとんどいなかった。
しかし、もうそろそろ「経済繁栄」と「物資の消費」を分けて考えるべきではないだろうか。
使い捨て経済の問題は、いうまでもなく多くの汚染を生み出すことである。
また、際限なく新しい原材料が必要になるので、際限なく鉱山を掘り森林を伐採し、自然を破壊する。
そして、極めて多量のエネルギーを使うため、結果として大量の二酸化炭素を吐きかたや、リサイクル経済は、どうだろうか。
明らかに地球への影響がはるかに少なくてすむのである。
前章で述べたエネルギー革命と同じように、リサイクル経済への移行は、もうすでに着実に始まっている。
この移行をなしとげるには、ビジネスや産業界のやり方を大変革する必要があるだけではなく消費者の選択方法何を食べどのように働三どのように楽しみ、何を捨てるかも大きく変えなくてはならない。
この移行の出発点はごく当り前のところにある。
今こそ自然に学べばよいのである。
自然から学ぶ自然界に無駄なものは一つもない。
簡単に言えば、ある生物の廃棄物は、別の生物の食物となる。
あらゆるものが、互いを支え合って育まれているのである。
極めて単純だが、実証済みの生態系の原則であり、われわれ人間はここから学ばなければならない。
産業界や企業は、自然をまねた産業システムを作り出すべく取り組まなくてはならない。
この新しい分野は「産業エコロジー」とよばれるが、経済システムを作り直して、廃棄物をゼロにすることを目指す。
われわれにとってこれは初めての試みだ。
なぜなら廃棄物が大きな問題になったことなど、これまで一度もなかったからである。
しかし、今や廃棄物の量が増えるに従って処理用の土地が足りなくなり、また廃棄物の性質が変わってきたために地下の水資源を汚染するようになってしまった。
資源を取り出し、短命のモノを作り、またすぐ捨ててしまう。
このような経済システムは当然持続できない。
特に、人口が増加し、富裕層も増える状況では、絶対に持続不可能である。
オーソドックスなビジネスの観点から見ても、現在の化石燃料に依存した使い捨て経済はやはり健全ではない。
『スモール・イズ・ビューティフル』を書いたE・F・シュマッハーが指摘したように、現在の使い捨て経済は、自らの資本を食いつぶしてやりくりをしている企業のようである。
コンスタントに収入を得ずに、会社の資本が減少し続ければ、企業の存在や安定が危うくなることは、どんな企業リーダーでも承知しているはずだ。
もしわれわれが自然から学び、リサイクル経済へ早急に移行できれば、ヨーロッパや日本などの人口の安定した成熟経済では、現在すでに保有している鉄鋼、アルミ、ガラス、紙などの材料だけで、経済の大部分を回していくことができる。
そうすると、自然からこれ以上資源を取り出す必要もほとんどない。
アメリカの鉄鋼業界がその一例だ。
アメリカの鉄鋼業界の大多数が、リサイクル原料を用いるハイテクの電気アーク炉を用いており、一九九六年に生産した鉄鋼の五五%が屑鉄から作られた。
ちょっと想像の翼を広げてほしい。
車が廃棄されると、溶かされてスープ缶になる。
スープ缶が捨てられると、再び溶かして今度は冷蔵庫になる。
冷蔵庫がくたびれて使えなくなると、自動車を作るための原料になる:::。
鉄鋼業界が、屑鉄を主原料として操業するようになれば、鉱石の採掘や輸送に伴う環境破壊を最小限に抑えると同時に、鉄鋼生産に必要なエネルギーを約六○%も減らすことができる。
エネルギー革命によって、豊富な一雇用やビジネスチャンスが生まれると主張してきたが、リサイクル経済も負けてはいない。
たとえば私の生まれ故郷、アメリカのニュージャージー州をご紹介しよう。
ニュージャージー州は、人口密度が高く、鉱山はいうに及ばず森林地帯さえほとんどないような州だが、そこに古紙のみを原料とする製紙工場が一三工場、主に屑鉄を原料とする製鉄所が八工場もある。
製紙と製鉄を合わせると、そのビジネス規模は年に一○億ドルを超え、州政府に雇用と豊かな税収をもたらしているのである。
固形廃棄物をリサイクルすべきか、焼却すべきか、埋め立てるべきか、と頭を悩ます地域や自治体にとって、雇用の点から最も優れた選択は明白だ。
たとえば、一五万トンの廃棄物を処理するのに、リサイクルだと九人分の一雇用が生まれるが、焼却だとニ人、埋め立ての場合はたったの一人である。
包装の使用量を減らし、包装ゴミをリサイクルすることにかけては、ヨーロッパでドイツの右に出るものはない。
一九九六年には、ドイツの全包装材1挺プラスチック、ブリキ板アルミなどの何と八○%がリサイクルされ埋め立て地に対する負担を大幅に減らすことができている。
この驚異的に高いリサイクル率は、ドイツの民間及び政府が率先して努力した成果であり、やる気さえあれば方法はあることを教えてくれる。
ある工場の破棄物が別の工場の原材料になるように生産システムを再構築するのも産業界が自然から学べる点だ。
最近「産業エコロジー」とか「ゼロエミッション産業」と呼ばれるこのような科学は非常に盛んになってきている。
デンマークの力ルンドボルグエ場地帯には、企業間で原料やエネルギーをやりとりするネットワークがある。
そこにはいろいろな形の連鎖が見られる。
たとえば、発電所で冷却水として使用したあとの温排水を、養殖会社が利用する。
養殖場の沈澱物を近郊の農家に肥料として売る。
発電所から出る灰は、セメントメーカーの原材料になる。
製薬工場からリサイクルか否かと左ブリキ缶の代わりにガラス瓶を輸送するとコストはどのくらいかかるか、などを果てしなく論議している時間はもうない。
新しい方法や新しいシステムに切り換えるには、一時的にコストはかかる。
しかし全体的に見れば、リサイクルや再利用をしなかった場合のコストの方が、ずっと高くつくことは一目瞭然である。
出る余分な酵母は、近郊農家の豚が食べる。
この循環型産業システムでは、ゴミはほとんど出ないし、参加している企業はみな得をしている。
この力ルンドボルグエ場地帯では、大気汚染も、水質汚濁も、ゴミも減った。
その一方で、企業の利益は増えている。
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